公務員も退職代行を使うこと自体はできますが、会社員と同じ感覚で考えると思わぬ食い違いが起きる可能性があります。公務員の退職は、民法上の雇用契約の解約ではなく、任命権者(人事を決める権限を持つ機関)が辞職を承認する仕組みで行われるためです。民間向けによく説明される「申し入れから2週間で辞められる」というルールは、そのままは当てはまらないと考えたほうが安全です。
この記事では、公務員の退職の仕組み、民間の「2週間」との違い、退職代行を使うときの注意点、弁護士に頼むのが現実的とされる理由、自分で退職を申し出る手順を、法令や判例で確認できる範囲で整理します。
- 国家公務員の退職は、国家公務員法と人事院規則に従い任命権者が行う
- 辞職は書面で申し出て、任命権者が承認する仕組み
- 民法627条の「2週間」を前提にした民間向けの説明は、そのまま当てはまらない可能性がある
- 公務員の職員団体の交渉は団体協約を結ぶ権利を含まないなど、民間の労働組合と仕組みが違う
- 代理人として対応できる弁護士に相談するのが現実的とされる
公務員の退職は「辞職の承認」という仕組み
会社員の場合、雇用は民法上の契約です。期間の定めがなければ、民法627条1項により、労働者からの申し入れの日から2週間で雇用は終了します。会社の承諾は必要ありません。
これに対して公務員は、任命権者によって「任命」されて職に就いています。退職も、任命権者が法令に従って行う手続きです。
国家公務員の場合
国家公務員法(e-Gov法令検索)61条は、職員の休職、復職、退職及び免職は、任命権者がこの法律と人事院規則に従って行うと定めています。
そのうえで人事院規則8-12(職員の任免)51条は、任命権者は、職員から書面で辞職の申出があったときは、特に支障のない限り、これを承認するものとすると定めています。つまり、書面で申し出て、任命権者が承認するという流れです。
地方公務員の場合
地方公務員法6条1項は、地方公共団体の長や教育委員会、警察本部長などの任命権者が、法律や条例、規則などに従って職員の任命や免職などを行う権限を持つと定めています。
辞職の具体的な手続きは、各自治体の条例・規則・規程で定められています。例として、愛知県警察の「人事関係書類の様式の制定」では、所属長が職員から辞職の願い出を受けたら、辞職承認内申書に辞職願を添えて本部長に内申することとされています。辞職願は自筆とし、辞職の理由を書かせるとも定められています。手続きは勤務先ごとに違うため、自分の所属先の規定を確認することが大切です。
民間向けの「2週間ルール」がそのまま当てはまらない理由
退職代行の説明では「法律上、2週間で辞められる」という言い方がよく使われます。これは民法627条1項を前提にした、民間の雇用契約についての説明です。
公務員の退職は、前述のとおり国家公務員法や人事院規則、自治体の規則などに基づく任命権者の手続きです。そのため、「2週間たてば自動的に辞められる」と考えて動くと、実際の手続きと食い違う可能性があります。
退職の効力は辞令の交付で生じると考えられている
最高裁判所の判例でも、公務員の退職は任命権者の行為を前提に扱われています。
- 最高裁昭和34年6月26日判決:公務員の退職願は、免職辞令の交付があるまでは原則として撤回できる。ただし、撤回が信義に反すると認められる特段の事情があれば許されない、と判断しました。
- 最高裁昭和29年8月24日判決:公務員の任免などの行政処分は、特別の定めがない限り、辞令書の交付などで相手方が知った時、または知りうる状態に置かれた時に効果が生じる、と判示しています。
こうした判例からも、公務員の退職は「申し入れから一定期間が過ぎれば終わる」というより、「辞職を申し出て、任命権者の承認と辞令によって効力が生じる」ものと考えられます。いつ承認されるか、承認までにどのくらいかかるかは、所属先や状況によって異なります。
公務員が退職代行を使うときの注意点
労働組合運営の退職代行でも、民間と同じ「団体交渉」になるとは限らない
民間企業では、労働組合が運営する退職代行は団体交渉権を背景に会社と交渉できるとされています(LUFTメディア)。しかし公務員の場合、労使関係の仕組み自体が民間と異なります。
- 地方公務員法58条1項は、労働組合法などの規定は職員に関して適用しないと定めています。
- 公務員には「職員団体」という仕組みがあります。国家公務員法108条の2第1項は、職員団体を「職員」が勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織する団体などと定義しています。
- 国家公務員法108条の5と地方公務員法55条は、当局が交渉に応じる立場に立つのは「登録された(登録を受けた)職員団体」からの適法な申し入れであり、その交渉は団体協約を締結する権利を含まないと定めています。
- 国家公務員法108条の2第5項は、警察職員などについて、当局と交渉する団体を結成したり加入したりしてはならないと定めています。
このように、公務員と当局との交渉は法律で枠組みが決められています。民間の労働組合が運営する退職代行が公務員の所属先と交渉しようとしても、民間企業と同じように扱われるとは限らない可能性があります。依頼する前に、その運営元が公務員の退職にどう対応するのかを確認しましょう。
民間企業の退職代行は「伝える」だけ
民間企業の退職代行は、退職の意思を伝えることが中心で、交渉やトラブルへの対応はできないとされています(ファイナンシャルフィールド)。弁護士でない者が報酬を得て法律事務を扱うことは弁護士法72条で禁止されています(東京弁護士会)。公務員の場合、辞職願は書面で提出する手続きが定められているため、意思を伝えるだけでは手続きが進まないことも考えられます。詳しくは退職代行は違法?非弁行為をご覧ください。
辞職願は本人が書くものと考えておく
人事院規則8-12は書面による辞職の申出を定めており、先の愛知県警察の規程のように辞職願を自筆とするよう定めている例もあります。退職代行に依頼しても、辞職願の作成・提出は本人が行う必要があると考えておきましょう。
弁護士に頼むのが現実的とされる理由
公務員が退職代行を検討する場合、弁護士が現実的な選択肢になると考えられます。主な理由は次のとおりです。
- 弁護士は依頼者の代理人として相手方とやり取りでき、労働審判や訴訟まで一貫して対応できる資格とされている(伊藤塾)
- 国家公務員法・地方公務員法、人事院規則、自治体の条例・規則など、法令に基づく手続きを確認しながら進められる
- 前述のとおり、公務員の職員団体の交渉は法律で枠組みが決まっており、民間の労働組合の団体交渉と同じとは限らない
- 退職手当や休暇の扱いなど、法律問題が絡んだ場合にも相談できる
弁護士の退職代行の料金は、一般的に5万〜10万円程度が相場とされています(LUFTメディア)。詳しくは弁護士の退職代行と退職代行の料金相場をご覧ください。
自分で退職を申し出る手順
公務員の場合、まずは自分で申し出る方法を確認しておくことが大切です。一般的な流れは次のとおりです。具体的な手続きや書式は所属先によって異なるため、人事担当部署で確認してください。
- 所属先の規則・規程で、辞職の手続き(書式・提出先・必要な時期)を確認する
- 所属長(上司)に、辞職の意向を伝える
- 辞職願を書面で作成する。自筆が求められる場合は手書きで、辞職の理由も記入する
- 所属長を通じて、または定められた提出先に辞職願を提出する
- 任命権者の承認を待つ
- 辞令の交付を受け、退職の効力が生じる
- 身分証や貸与物の返却、各種手続きを行う
辞職願を出したあとでも、辞令の交付前であれば原則として撤回できるとした判例があります(最高裁昭和34年6月26日判決)。ただし、撤回が信義に反すると認められる特段の事情がある場合は許されないとされています。迷いがある場合は、提出前によく考えましょう。
上司に言い出しにくい場合は退職を言い出せないとき、引き止めにあっている場合は退職させてもらえない・引き止めへの対処も参考にしてください。
よくある質問
公務員も「2週間で辞められる」のですか?
民法627条1項の「申し入れから2週間で雇用が終了する」という規定は、民間の雇用契約を前提にした説明です。公務員の退職は、国家公務員法61条や人事院規則8-12、自治体の規則などに基づき、任命権者が辞職を承認する仕組みです。2週間で自動的に辞められると考えるのは避けたほうが安全です。
辞職願を出しても承認されないことはありますか?
人事院規則8-12第51条は、書面で辞職の申出があったときは「特に支障のない限り」承認するものとすると定めています。どのような場合が「特に支障」にあたるかは個別の事情によるため、不安がある場合は弁護士に相談してください。
公務員でも労働組合の退職代行を使えますか?
利用すること自体が禁止されているわけではありません。ただし、地方公務員法58条1項で労働組合法が職員に適用されないとされているなど、公務員の労使関係は民間と仕組みが違います。民間企業と同じような交渉ができるとは限らないため、依頼前に対応範囲を確認してください。
まとめ
公務員の退職は、民法上の雇用契約の解約ではなく、任命権者が辞職を承認する仕組みです。国家公務員は国家公務員法61条と人事院規則8-12、地方公務員は地方公務員法と各自治体の条例・規則などに従って手続きが進みます。民間向けの「2週間で辞められる」という説明は、そのまま当てはまらない可能性があります。
退職代行を使う場合は、労働組合運営であっても民間企業と同じ交渉ができるとは限りません。法令に基づく手続きに対応でき、代理人として動ける弁護士に相談するのが現実的です。まずは所属先の規定を確認し、自分で辞職願を出す方法も含めて検討しましょう。退職代行の基本は退職代行とはをご覧ください。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の事案についての法的な助言ではありません。具体的なトラブルについては弁護士などの専門家にご相談ください。

