会社に退職させてもらえない、辞めさせてくれないと感じていても、期間の定めのない雇用契約であれば、会社の同意がなくても退職の申し入れから2週間で雇用は終了するとされています(民法627条)。会社が「後任が見つかるまで待て」「損害賠償を請求する」と言っても、それだけで退職が無効になるわけではありません。大切なのは、退職の意思を書面などの記録が残る形で伝えることです。
この記事では、会社が退職を拒否できない法的な根拠、よくある引き止めのパターンと法律上の見方、自分でできる対処法、相談先を解説します。法令の条文はe-Gov法令検索で確認できる範囲で紹介しています。
- 期間の定めのない雇用は、申し入れから2週間で終了すると民法627条が定めている
- 「後任が見つかるまで待て」と言われても、意思表示から14日が経過すれば退職は成立すると労働局は説明している
- 違約金や賠償額をあらかじめ決める契約は労働基準法16条で禁止されている
- 賃金は全額を支払う必要があり、退職を理由に払わないことは認められない
- 退職届は郵送や内容証明郵便で送り、やり取りの記録を残しておく
会社は退職を拒否できない:法律上の根拠
期間の定めのない雇用:民法627条
民法627条1項は、雇用の期間を定めなかったときは各当事者がいつでも解約の申し入れをすることができ、申し入れの日から2週間を経過することで雇用が終了すると定めています(e-Gov法令検索「民法」)。
茨城労働局は、退職の申し入れは使用者の承諾がない場合でも2週間を経過すれば効力が発生すると説明しています(茨城労働局「会社を辞めたいのに辞めさせてもらえない」)。鹿児島労働局も、会社の同意がなければ退職できないというものではないとしています(鹿児島労働局)。
なお、以前は月給制の場合に退職の時期が制限されるという解釈があり、その説明が残っているページもあります。しかし厚生労働省「スタートアップ労働条件」のQ&Aによると、2020年4月施行の改正民法により、月給制や年俸制でも労働者からの辞職は一律2週間とされています。現在の民法627条2項は、使用者からの解約の申入れについての規定です(e-Gov法令検索「民法」)。
期間の定めがある雇用:民法628条
契約社員など期間の定めがある雇用の場合、民法628条は、やむを得ない事由があるときは直ちに契約を解除できると定めています。ただし、その事由が一方の過失によって生じたときは、相手方に損害賠償の責任を負うとされています(e-Gov法令検索「民法」)。何が「やむを得ない事由」にあたるかは個別の事情によるため、有期雇用の方は相談窓口や弁護士に確認すると安心です。
就業規則との関係
就業規則に「退職は1か月前までに申し出る」などの定めがある場合、茨城労働局は、その期間が社会通念上著しく長期間でなければ、トラブル防止のためまず就業規則に沿って申し出るのがよいとしています。一方で、極端に長い申し入れ期間は、公序良俗に反し無効とされることもあると鹿児島労働局は説明しています。
よくある引き止めのパターンと法律上の見方
退職の引き止めには、よく見られるパターンがあります。それぞれの法律上の見方を整理します。
| 引き止めの言葉 | 法律上の見方 | 関連する法令 |
|---|---|---|
| 「後任が見つかるまで待て」 | 意思が変わらなければ、伝わった日の翌日から14日で退職が成立するとされる | 民法627条 |
| 「辞めるなら損害賠償を請求する」 | 違約金や賠償額をあらかじめ定める契約は禁止されている | 労働基準法16条 |
| 「退職届は受け取れない」 | 意思表示は相手に到達した時に効力を生じる | 民法97条 |
| 「辞めるなら今月の給料は払わない」 | 賃金は全額を支払う必要がある | 労働基準法24条 |
| 「有給は使わせない」 | 有給休暇は原則として労働者の請求する時季に与える | 労働基準法39条 |
| 脅して働かせ続ける | 暴行・脅迫などで労働を強制することは禁止されている | 労働基準法5条 |
「後任がいない」「人手が足りない」
最も多い引き止めの一つです。茨城労働局は、「新しい人が見つかるまで待て」と言われた場合でも、就業規則に特に定めがなく退職の気持ちに変わりがなければ、退職の意思表示が伝わった日の翌日から14日が経過すると法律上退職が成立すると説明しています。引き継ぎにはできる範囲で協力しつつ、退職日そのものは自分で決めてよいと考えられます。
「損害賠償を請求する」とほのめかす
労働基準法16条は、使用者が労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしたりしてはならないと定めています(e-Gov法令検索「労働基準法」)。「途中で辞めたら罰金◯万円」といった取り決めは、この規定に反する可能性があります。
ただし、16条が禁じているのは賠償額をあらかじめ決めておくことです。実際に損害が生じた場合に賠償を求められる可能性が一切ないとまでは言い切れません。不安がある場合は弁護士に相談しましょう。詳しくは退職代行と損害賠償で解説しています。
退職届を受け取らない
上司が退職届を受け取らなくても、それだけで退職できなくなるわけではありません。民法97条1項は、意思表示はその通知が相手方に到達した時から効力を生ずると定めています(e-Gov法令検索「民法」)。問題になるのは「届いたかどうか」を後で示せるかです。手渡しを拒まれた場合は、郵送などで記録を残す方法に切り替えましょう。
「給料を払わない」と言われる
労働基準法24条1項は、賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと定めています。また、23条1項は、労働者が退職した場合に権利者の請求があれば、使用者は7日以内に賃金を支払い、労働者の権利に属する金品を返還しなければならないとしています(e-Gov法令検索「労働基準法」)。働いた分の賃金が払われない場合は、労働基準監督署などに相談できます。
有給休暇を使わせない
労働基準法39条5項は、有給休暇は労働者の請求する時季に与えなければならないとし、例外として「事業の正常な運営を妨げる場合」に会社が時季を変更できると定めています(e-Gov法令検索「労働基準法」)。退職前の有給休暇の扱いは退職代行と有給消化で詳しく解説しています。
しつこい引き止めや威圧
何度も面談を設定される、大声で責められるなど、引き止めがしつこい場合もあります。労働基準法5条は、使用者が暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならないと定めています(e-Gov法令検索「労働基準法」)。どこからがこの規定にあたるかは個別の事情によるため、言われた内容と日時を記録し、相談窓口に伝えましょう。
引き止めに負けないために自分でできる対処
会社が退職を認めない場合でも、自分でできることがあります。次の手順で進めると、後から「言った・言わない」になるのを防ぎやすくなります。
- 退職の意思と退職日を、口頭だけでなくメールでも伝える
- 退職届を作成し、手渡しを拒まれたら郵送する
- 確実に記録を残したい場合は、内容証明郵便と配達証明を使う
- 面談の日時、言われた内容、メールなどのやり取りを記録・保存する
- 貸与品の返却と、引き継ぎメモの準備を進めておく
内容証明郵便で送る
日本郵便の内容証明は、いつ、どのような内容の文書を、誰から誰あてに差し出したかを証明する制度です。一般書留とする必要があり、配達証明などのオプションと併用できます。窓口のほか、インターネットで24時間受け付ける「e内容証明」もあります(日本郵便「内容証明」)。証明されるのは文書の存在で、内容が正しいかどうかではない点に注意しましょう。
自分で伝える準備や例文は退職を言い出せないときでまとめています。
退職させてもらえないときの相談先
自分だけで対応するのが難しい場合は、次の相談先があります。
| 相談先 | 向いているケース |
|---|---|
| 総合労働相談コーナー | どこに相談すればよいか分からない、まず話を聞いてほしい |
| 労働基準監督署 | 賃金未払いなど労働基準法違反の疑いがある |
| 弁護士・法テラス | 損害賠償を求められている、残業代などを請求したい |
| 退職代行 | 会社と直接やり取りするのが難しい |
総合労働相談コーナー・労働基準監督署
厚生労働省の総合労働相談コーナーは、各都道府県労働局や全国の労働基準監督署内などにあり、職場のトラブルについて無料・予約不要で相談できます。労働基準法などの違反の疑いがある場合は、労働基準監督署など行政指導の権限を持つ部署に取り次ぐとされています。希望すれば、法テラスなどほかの紛争解決機関の情報も提供されます(厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」)。
弁護士・法テラス
損害賠償を請求すると言われている、会社と金銭面で争いがあるといった場合は、弁護士への相談が基本です。法テラスは、収入や資産が一定基準以下の人を対象に、弁護士・司法書士による無料法律相談を行っています(法務省「あかれんが」vol.82)。
退職代行
会社と直接話すこと自体が難しい場合は、退職代行も選択肢になります。ただし、東京弁護士会は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事件の交渉などを行うことは弁護士法72条で禁止されていると説明しています(東京弁護士会「退職代行サービスと弁護士法違反」)。強い引き止めや賠償の話が出ている場合は、交渉できる運営元かどうかが重要です。違いは弁護士の退職代行、労働組合の退職代行、退職代行は違法?非弁行為で解説しています。
よくある質問
会社が「退職は認めない」と言い続けたらどうなりますか?
期間の定めのない雇用であれば、退職の意思表示が会社に届いてから2週間が経過すると雇用は終了するとされています。会社が認めるかどうかは成立の条件ではありません。意思表示が届いたことを示せるよう、郵送やメールで記録を残しておきましょう。
引き継ぎをしないと辞められませんか?
引き継ぎが終わらないことを理由に退職が無効になるわけではないと考えられます。ただし、円満に辞めるためにも、引き継ぎメモを作るなどできる範囲で協力しておくと、後のトラブルを減らせます。
退職を伝えた後に欠勤してもよいですか?
退職日までは雇用契約が続いているため、無断欠勤はトラブルのもとになります。有給休暇が残っていれば、その利用を申し出る方法があります。体調が悪い場合は、診断書の取得も含めて相談窓口や弁護士に確認しましょう。
まとめ
退職させてもらえない、辞めさせてくれないと感じても、期間の定めのない雇用なら民法627条により申し入れから2週間で雇用は終了するとされています。「後任がいない」「損害賠償」「給料を払わない」といった引き止めには、それぞれ法律上の見方があります。退職の意思は書面や郵送など記録が残る形で伝え、困ったときは総合労働相談コーナー、労働基準監督署、弁護士、退職代行などを状況に合わせて使い分けてください。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の事案についての法的な助言ではありません。具体的なトラブルについては弁護士などの専門家にご相談ください。

