退職代行の失敗や後悔は、多くの場合「依頼先の運営元でできることの範囲」と「自分が求めていたこと」が合っていなかったときに起きます。退職の意思を伝えるだけなら民間企業の業者でも対応できますが、有給休暇や残業代の交渉が必要になると、弁護士でない業者は対応できないとされています。依頼前に運営元と対応範囲を確認しておけば、失敗の多くは防げる可能性があります。
この記事では、退職代行で失敗・後悔が起きる典型的なパターンを一般論として整理し、それぞれの予防策と、うまくいかなかったときの立て直し方を解説します。体験談ではなく、法令や公的機関・弁護士会の情報をもとにまとめています。
退職代行の仕組みそのものを知りたい方は、先に退職代行とはをご覧ください。
- 失敗の多くは「運営元の対応範囲」と「やりたいこと」のずれから起きる
- 弁護士でない業者が残業代などを交渉すると非弁行為にあたる可能性がある
- 会社からの連絡や書類の遅れは、退職代行では止めきれないことがある
- 離職票が届かないときはハローワーク、賃金の未払いは労働基準監督署などに相談できる
- 業者とのトラブルは消費者ホットライン188、法的な争いは弁護士が相談先になる
退職代行の「失敗」は運営元の違いから起きやすい
退職代行には、主に民間企業・労働組合・弁護士の3つの運営元があります。運営元によって、会社とやり取りできる範囲が異なります。
東京弁護士会は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事件の交渉などを扱うことは弁護士法72条で禁止されていると説明しています。そのうえで、業者が残業代について会社と交渉する例を、非弁行為(弁護士資格のない者による違法な法律事務)にあたる例として挙げています(東京弁護士会「退職代行サービスと弁護士法違反」)。
| 運営元 | 主にできること | 料金の一般的な相場 |
|---|---|---|
| 民間企業 | 退職の意思を伝える(使者としての伝達) | 1万〜5万円程度 |
| 労働組合 | 団体交渉権を背景に、有給休暇などを交渉する場合がある | 2万5,000〜3万円程度 |
| 弁護士 | 代理人として交渉し、労働審判や訴訟にも対応できる | 5万〜10万円程度 |
料金相場はLUFTMEDIA、ファイナンシャルフィールドの記載をもとにした目安です。対応範囲は伊藤塾の解説とLUFTMEDIAを参考にしています。なお、労働組合が交渉する場合でも必ず非弁行為にならないとは限らないと、東京弁護士会は述べています。運営元ごとの違いは弁護士の退職代行、労働組合の退職代行、退職代行の料金相場でも解説しています。
退職代行で失敗・後悔する典型パターンと予防策
ここからは、よく問題になるパターンを7つに分けて整理します。どれも「必ず起きる」ものではありませんが、依頼前に知っておくと備えやすくなります。
1. 交渉が必要になったのに業者が対応できない
会社が退職の条件について反論してきた場合、弁護士でない業者はそれ以上の交渉ができません。伊藤塾の解説では、東京地裁令和2年2月3日判決の事案が紹介されています。会社が「雇用契約ではなく業務委託契約なので民法627条は適用されない」と主張し、代行業者が業務を中止したため、利用者が改めて弁護士に依頼したという経緯です(伊藤塾)。
この判決では、紛争が生じた時点で業者が業務を止めたことから、非弁行為にはあたらないとされました。裏を返すと、争いになった時点で業者のサポートは止まり、利用者は別に費用をかけて弁護士に頼み直す必要が出る、ということです。
予防策は、会社と揉める可能性があるかを事前に見積もることです。雇用形態に争いがありそう、未払いの残業代がある、ハラスメントの被害があるといった場合は、最初から弁護士への相談を検討したほうがよいでしょう。非弁行為の考え方は退職代行は違法?非弁行為で詳しく解説しています。
2. 会社が業者を取り合わない
伊藤塾の解説では、会社が民間業者との連絡を拒むケースもあるとされています。業者はあくまで本人の意思を伝える立場のため、会社が「本人と直接話す」と言えば、それ以上は押し切れないことがあります。
ただし、会社が業者を相手にしないことと、退職できないことは別の問題です。期間の定めのない雇用契約では、退職の申し入れから2週間が経過すると雇用は終了すると民法627条1項は定めています(e-Gov法令検索「民法」)。会社が取り合わない場合は、自分で退職届を書面で送るなど、意思表示が会社に届いた記録を残す方法があります。詳しくは退職させてもらえない・引き止めへの対処をご覧ください。
3. 有給休暇や残業代が取れなかった
「辞められたけれど、有給休暇を使えなかった」「残業代が払われないままだった」という後悔もよく挙げられます。労働基準法39条は、6か月継続して勤務し出勤率の要件を満たした労働者に年次有給休暇を与えることと、原則として労働者の請求する時季に与えることを定めています(e-Gov法令検索「労働基準法」)。
とはいえ、会社が有給の取得に応じない場合や、残業代の金額に争いがある場合、民間業者は「本人の希望を伝える」以上のことはできません。東京弁護士会は、残業代は計算が複雑で、支払われても正しい額より少ないことがあり得るとも指摘しています(東京弁護士会)。
予防策として、依頼前に有給休暇の残日数、給与明細、勤怠の記録を手元に控えておきましょう。金銭の請求まで考えているなら、交渉できる運営元を選ぶ必要があります。有給休暇の扱いは退職代行と有給消化で解説しています。
4. 想定していなかった追加料金がかかった
料金表に載っている金額だけで済むと思っていたら、別の費用がかかったというケースです。LUFTMEDIAでは、労働組合への加入料が別途かかる場合や、金銭請求を伴う交渉では回収額の一部を成功報酬として支払う仕組みが一般的であることが挙げられています(LUFTMEDIA)。
予防策は、申し込む前に「総額でいくらか」「どんな場合に追加費用がかかるか」「返金やキャンセルの条件は何か」を書面やメールで確認しておくことです。口頭の説明だけで決めないことが大切です。
5. 会社から本人や家族に連絡が来た
退職代行を使えば会社と一切話さずに済む、と考えていた人ほど、会社からの電話に戸惑いやすくなります。業者は会社に「本人への連絡を控えてほしい」と伝えることはできますが、一般的には会社の行動を強制的に止める力はないと考えられます。
連絡が来やすいのは、貸与品の返却、私物の扱い、業務の引き継ぎについてです。依頼前に私物を持ち帰る、返却物をまとめておく、引き継ぎメモを作っておくと、会社が本人に連絡する理由を減らせます。それでも連絡が来た場合は、無理に出る必要はなく、業者を通して用件を確認してもらう方法があります。家族への連絡が心配な場合は、事前に家族に事情を話しておくと安心です。
6. 離職票や退職証明書などの書類が届かない
退職後、失業給付の手続きに必要な離職票がなかなか届かないことがあります。大阪労働局のハローワークの案内では、会社は離職日の翌々日から10日以内に資格喪失届をハローワークへ提出することになっており、期限を過ぎても届かない場合はまず会社に確認し、それでも対応がなければ住居所を管轄するハローワークに相談するよう案内されています(ハローワーク堺「よくある質問」)。
また、労働基準法22条1項は、退職した労働者が請求した場合、使用者は使用期間や業務の種類、退職の事由などを記した証明書を遅滞なく交付しなければならないと定めています(e-Gov法令検索「労働基準法」)。必要な書類は、依頼の段階で業者に「何を、どこに送ってほしいか」を会社へ伝えてもらうと行き違いを防ぎやすくなります。
7. 業者と連絡が取れなくなった
料金を払った後に業者と連絡が取れなくなるのは、利用者にとって最も困る失敗の一つです。予防策としては、運営会社の所在地・連絡先・運営元の種類が公式サイトで確認できるか、契約内容がメール等の形で残るかを申し込み前に確認しておきましょう。
2026年には、退職代行「モームリ」の運営会社の当時の代表者らが、利用者を弁護士に紹介して紹介料を受け取っていた弁護士法違反(非弁提携)の疑いで逮捕・起訴され、紹介を受けていた弁護士側には有罪判決が出たと報じられています(伊藤塾)。業者選びでは、料金だけでなく法律に沿った運営かどうかにも目を向ける必要があります。経緯はモームリ事件で問題になったことにまとめています。
依頼前に確認したいチェックリスト
失敗を防ぐために、申し込む前に次の点を確認しておきましょう。
- 運営元は民間企業・労働組合・弁護士のどれか。公式サイトで運営者情報を確認できるか
- 自分が求めることは「意思を伝えるだけ」か、有給休暇・未払い賃金などの交渉まで必要か
- 料金の総額、追加費用がかかる条件、返金やキャンセルの条件
- 有給休暇の残日数、給与明細、勤怠記録、雇用契約書、就業規則を手元に控えたか
- 私物の持ち帰り、貸与品の返却方法、引き継ぎメモの準備
- 離職票・源泉徴収票・退職証明書など、受け取りたい書類と送付先を伝えたか
退職代行のデメリット全般は退職代行のデメリット・危険性でも解説しています。
失敗したときの立て直し方と相談先
退職代行がうまくいかなかったとしても、退職そのものをあきらめる必要はありません。困りごとの種類によって、相談先を使い分けます。
| 困りごと | 主な相談先 |
|---|---|
| 会社と揉めている、残業代や慰謝料を請求したい | 弁護士(費用面が心配なら法テラス) |
| 賃金が払われない、有給を認めない、退職を認めない | 総合労働相談コーナー、労働基準監督署 |
| 離職票が届かない | ハローワーク |
| 業者と連絡が取れない、返金に応じない | 消費生活センター(消費者ホットライン188) |
職場の問題は総合労働相談コーナー・労働基準監督署へ
厚生労働省の総合労働相談コーナーは、各都道府県労働局や全国の労働基準監督署内などにあり、解雇や賃金などあらゆる労働問題について無料・予約不要で相談できます。労働基準法などの違反の疑いがある場合は、労働基準監督署など行政指導の権限を持つ部署に取り次ぐとされています(厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」)。
離職票はハローワークへ
会社が離職票の手続きをしない場合、離職者本人がハローワークに被保険者であったことの確認を請求でき、確認されるとハローワークから離職票が交付されると埼玉県は案内しています(埼玉県「会社が離職票を交付してくれない」)。
業者とのトラブルは消費者ホットライン188へ
消費者ホットライン188は、全国の消費生活相談窓口を案内する全国統一番号です(国民生活センター)。支払いの記録や業者とのやり取りを残したうえで相談しましょう。
法的な争いは弁護士・法テラスへ
会社との争いが本格化した場合は、弁護士に相談するのが基本です。法テラスでは、収入や資産が一定基準以下の人を対象に、弁護士・司法書士による無料法律相談を行っています。初めての場合はサポートダイヤル(0570-078374)に連絡するよう案内されています(法務省「あかれんが」vol.82)。
よくある質問
退職代行が失敗したら、退職できないのですか?
退職代行がうまくいかなかったことと、退職できるかどうかは別の問題です。期間の定めのない雇用契約なら、民法627条により申し入れから2週間で雇用は終了するとされています。自分で書面を送る、弁護士に依頼し直すなどの方法があります。
退職代行を使うと損害賠償を請求されますか?
賠償を求められるかどうかは、退職代行を使ったかどうかよりも、退職の仕方や個別の事情によります。なお、労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額をあらかじめ定める契約を禁じています(e-Gov法令検索「労働基準法」)。詳しくは退職代行と損害賠償をご覧ください。
民間業者に依頼した後、弁護士に切り替えることはできますか?
依頼し直すこと自体は可能です。ただし、すでに払った料金が返ってくるかは契約内容によります。二重に費用がかからないよう、揉める可能性がある場合は最初から運営元を慎重に選びましょう。
まとめ
退職代行の失敗・後悔は、運営元の対応範囲を超える問題が起きたときや、料金・書類・連絡についての確認が足りなかったときに起きやすくなります。依頼前に「自分は何を求めているのか」を整理し、それに対応できる運営元を選ぶことが一番の予防策です。うまくいかなかった場合も、総合労働相談コーナー、労働基準監督署、ハローワーク、消費生活センター、弁護士といった相談先があります。一人で抱え込まず、困りごとに合った窓口を頼ってください。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の事案についての法的な助言ではありません。具体的なトラブルについては弁護士などの専門家にご相談ください。

